がんという病気が恐れられる理由のひとつに、
その疼痛(とうつう。痛み)の激しさがあります。

たしかにがん患者は、病状が進行するにつれて
強い痛みを覚えることが少なくありません。

とくにがんが、原発部位(最初にがんが発生した場所)から
他のさまざまな臓器に転移している場合には、
患者は、身近な人が正視できないほど苦しむこともあります。

このような場合、医師は、強力な鎮痛剤として
「モルヒネ」を処方します。

しかし、モルヒネは麻薬としても有名です。

痛みを抑えるためとはいえ、
モルヒネを頻繁に使用すると、
麻薬中毒(依存症)になるのではと心配する人が多いです。

しかし実際には、正確な知識をもつ医師がモルヒネを処方し、
患者や家族が使用法を守るかぎり、
その危険性はまずないことが明らかになっています。

アメリカのある医学専門誌に掲載された記事によると、
アメリカで鎮痛剤としてモルヒネを投与された
入院患者約1万2000人のうち、退院後に麻薬中毒症状を
いくらかでも示したのはわずか4人で、
わずか0.1パーセントでした。

鎮痛剤としての麻薬の歴史はたいへん古く、
ケシの実から抽出されるアヘン
(モルヒネを主成分として含む))は、
古代ギリシア時代から利用されていました。

1805年には、ドイツの医師がケシの実から
鎮痛効果のある物質を抽出し、
これをギリシア神話の眠りの神モルフェウスにちなんで
「モルヒネ」と名づけました。

以来、モルヒネは鎮痛剤として世界的に急速に普及し、
アメリカの南北戦争(1861~65年)では、
負傷兵の痛み止めに頻繁に使用されました。

しかし当時は、激痛がおさまってからも
モルヒネを手放すことができず、
中毒のような状態になった人が多数いたことが知られています。

ではなぜ、かつては鎮痛用モルヒネで
麻薬中毒に陥る人がいたのに、
現在では中毒にはならないといえるのでしょうか?

モルヒネは、痛みを和らげる2つの作用をもっています。

第1は脊髄に作用し、その中を走る神経のはたらきを
不活発にして、ある程度強い刺激でないと
痛みの信号が脳にまで届かなくするはたらきです。

第2は、痛みを感じる脳の領域に直接作用して、
痛みに対する感受性を鈍くするはたらきです。

このとき患者は、まだ痛みが残っているにもかかわらず、
痛みから解放されたように感じます。

モルヒネがこのような鎮痛効果だけをもつなら、
問題は生じないでしょう。

しかしモルヒネには第3の作用があります。
それは、脳の"快感中枢"と呼ばれる部位を刺激し、
陶酔感や多幸感を与えることです。

これが麻薬中毒、つまり薬物の精神依存症を
引き起こす原因とされています。

このようなモルヒネの作用が明らかになる以前は、
モルヒネは、患者が痛みに耐えられなくなってから
はじめて注射によって投与されました。

そのため患者の脳内には突如として
大量のモルヒネが入り込み、痛みを抑えるだけでなく、
多幸感をもたらすことになりました。

しかし、モルヒネのこの効果が薄れると
患者は精神的に落ち込むため、
さらにモルヒネを求めるようになり、
これがくり返される結果、
中毒(依存)症状を示すことがあったのです。

そこで現在では、がん患者ががんによる痛みを
訴えたときには、脳内のモルヒネに過不足が生じないよう、
錠剤を定期的に投与するようになっています。

量も患者の状態を見ながら、ごく少容量
(最少10ミリグラム/日)から処方されます。

この方法による疼痛治療では、
過剰なモルヒネによって多幸感が生じることはなく、
麻薬中毒(依存症)になることもないと考えられています。

なお一般に、モルヒネを使い続けていると
しだいに鎮痛効果が低下し量を増やす必要が生じます。

その第1の理由は、患者の体内のモルヒネの
代謝速度が速くなるためです。

第2の理由は、モルヒネを受け取る細胞そのものが
モルヒネに対して鈍感になるためです(耐性が生じる)。
しかしこれは、あらゆる薬物に対する
私たちの体の正常な反応であり、
麻薬中毒とはまったく別のものです。

モルヒネは、90パーセント以上のがん患者の痛みを
和らげるとされており、現時点ではもっともすぐれた
鎮痛剤ということができます。

問題は、残りの10パーセントの患者には、
モルヒネが十分な鎮痛効果を生み出さないということです。

事実、がんが神経に浸潤したり、
神経を圧迫・損傷した結果として生じる痛み
(神経因性疼痛)には、モルヒネはあまり効果がありません。

神経因性疼痛は、抗うつ薬や抗けいれん薬、
比較的新しい薬ではNMDA受容体阻害剤などで
和らぐこともあります。

しかし、神経因性疼痛がどのようにして生じるのか、
また抗うつ薬などがなぜ神経因性疼痛に
鎮痛効果を生み出すことがあるのか、
その理由はまだ十分には明らかになっていません。


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